々にもされてい


「まだ内々の話ですが、邏卒の高官に、佐川さまが任ぜられる話があるのをご存知ですか?」
「そうなのか?いや、恥ずかしながら世情に疎くて会津の方々のことは、ほとんど知らずじまいだ。佐川さまとは白河以来お会いしていない。」

薩長に「鬼佐川」「鬼官兵衛」とあだ名され、恐れられた勇将佐川官兵衛が、その実力を捨て置くのはもったいないと、警視庁に入るよう要請るという。
今はまだ、正式に決定しているわけではないが、内密に容保に伺いを立て、おそらく受諾するだろうと窪田は語った。

「佐川さまなら、わたしもよく知っている。もしも佐川さまの元で働けるなら、どれほど励みになるかもしれない。窪田君、ほかにどんな方がいるか詳しく話を聞かせてくれないか。」
「いいですよ。近くにいる会津の方声をかけて、一杯やろうじゃありませんか。皆、鉄砲隊隊長の相馬さまに会えたと知ったなら、なぜ声をかけなかったと怒るでしょうから。」
「そうか。久しぶりに大いに呑もう……と、言いたいが、実は懐がさみしくてな。」

直正は、頭を掻いた。

「牛鍋屋はどうです?あれは実にうまい。前祝いに、是非奢らせてください。」
「すまないな。出世払いで借りておくとするか。」

数日後、直正は正式に邏卒(らそつ?警官)の職を得た。
共に受かった窪田や元会津藩士に飲みに行こうと誘われたが、真っ先に一衛に知らせたいと断りを入れて、直正は帰ってきた。

「決まったぞ!一衛!」

同郷の元会津藩家老、佐川官兵衛の元で働けるようになるかもしれないと、以前から聞かされていた一衛も共に祝杯を挙げた。

「直さま。おめでとうございます。」

久しぶりに、明るい顔で話す直正を見るのが嬉しかった。

「元会津藩士と共に、佐川さまの配下で働くことになると思う。佐川さまはこれまでの武人としての実力を新政府に認められて一等大警部に任命されたんだ。苦労して東京にでてきたが、これでやっとまともな暮らしができる。これも皆、日向さんに拾ってもらったおかげだな。一衛も礼を言ってくれよ。」
「……あい。」
「邏卒になれば、毎月まとまった禄が出る。会津に戻るのも夢ではなくなったぞ、一衛。」

直正は仲間と共に侍として働けることを、大層喜んでいた。
結局、侍としての生き方しかできない自分を生かせる場所を得た心持だった。
実際、全国から名の通った多くの有能な士族が選ばれて、警視庁に奉公することになった。
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